【東方蜂蜜祭】デザイナーズノート【ボードゲーム】

新年明けましておめでとうございます。
皆様去年は大変お世話になりました。今年も何卒よろしくお願いします。

去年の暮れに頒布致しました「東方蜂蜜祭」ですが、おかげ様で多くの方にお手にとって頂け、滑り出しはなかなかというところです。
これまでに様々なご意見を頂いており、有り難いお言葉から手厳しい意見まで全て目を通させて頂いております。それら全て、今後の制作に生かしたいと思います。
皆様、本当にありがとうございます。

さて、今回はその「東方蜂蜜祭」のデザイナーズノートを書こうと思います。デザイナーズノートと言えるほどのものではないですが、ご興味の元、ご拝読頂けたなら幸いです。


<<「東方蜂蜜祭」のはじまり>>
元々ボードゲームが好きだったので自分でも何かボードゲームが作りたいな、その程度の思いつきが全てのはじまりでした。
思いついた企画を片っ端から文字と絵にしていき、その中で最もしっくり来たのが今のシステムの元となっています。


「どうして蜂蜜なの?」とよく聞かれますが、ひとつはシステムに非常にマッチしたということ。もうひとつは蜂蜜をテーマにしたボードゲームがあまりなかったということ。さらに言えば、チルノや大ちゃんを蜂にしたらかわいくね!?ということです。
テーマが決まればタイトルが決まるのは一瞬でした。


<<コンセプト>>
どのような物を作るにしろ、まずコンセプトをしっかりと決めることが何よりも大事です。
私が今回柱にしたコンセプトは以下の2本です。

  • 比較的短時間で満足感を得られる
  • 初心者と経験者が同じ卓で遊べる

  • まずは「比較的短時間で満足感を得られる」について。
    ここでいう"比較的短時間"というのは具体的に1時間程度のことを言います。
    ボードゲームというものは長いものだと1回のゲームで3時間も4時間もかかるものがあります。また、硬直状態に陥ってゲームが想像以上に長引くこともあります。
    それらが決して悪いことだとは思いませんし、むしろ長時間プレイは個人的には好きです。
    しかし、ボードゲームは複数の人間が、同じ場所で、同じ時間を共有する必要があります。様々な娯楽に溢れる今、休日を何時間も共有できるのは稀です。
    そこで、比較的短時間で、1時間ぐらいで終わり、何度も遊べるようなボードゲームを作りたかったのです。

    次に「初心者と経験者が同じ卓で遊べる」について。
    これはつまりどういうことが言いたいかというと、ひとつはプレイングでは経験者にかなわない初心者が一発逆転できるチャンスを作るということ。噛み砕いて言えば"ジョーカー"の導入です。もうひとつは初心者でもすぐにルールを理解でき、経験者も飽きさせないというデザイン。
    これは私の独断と偏見ですが、ボードゲームプレイヤーというものは、どうも実力が拮抗、もしくは上の人間としかやりたがらない傾向が強い気がします。
    こうなる理由もわかります。先ほども書いたようにボードゲームは長いものだと本当に時間がかかります。1人の行動が他のプレイヤー全体に影響を与えるゲームも多いです。そんな中で、初心者が良かれと思った行動が実は経験者からしてみればとんでもない行動で、今までの時間が無駄になったということがあるからです。もちろん、大会などを視野に入れた卓は初心者お断りが当然ですが。
    なので、私はゲームデザインの時点で、誰もが同じ卓で遊べるようなゲームを作りたいな、と考えました。当然、"運"の要素をある程度高めないとそれは実現できません。しかし、"運"の要素を高くし過ぎることをボードゲームプレイヤーは嫌います。ここの調整が非常に大変でした。同じような実力のプレイヤーが集まれば"運ゲー"と感じがちなのはどのゲームでも少なからずあることですし、「東方蜂蜜祭」でもそれは起こりえます。そして、私はそれを悪いとは思いません。
    また、ルールを複雑化しすぎると初心者が脱落し、簡単にしすぎると経験者は物足りなさを感じます。パーティーゲームにもゲーマーズゲームにもするつもりはありませんでした。ここはボードゲームを日頃からプレイする層とボードゲームをあまりプレイしたことのない層の両者にテストプレイをして頂いたことによりすり合わせが出来たと思っております。


    まとめますと、キャッチコピーの通り「蜂蜜をめぐってお祭り騒ぎ!」できるようなボードゲームにしたかったということです。
    ※初心者をボードゲームをあまりプレイしたことがない層、経験者をボードゲームを日頃からプレイする層と定義しています。


    <<値段>>
    「東方蜂蜜祭」は最後の最後まで悩んだ結果、イベントでは4500円で頒布しました。
    この"4500円"という数字、これ単体で見れば少し高いという印象を持たれる方がほとんどだと思います。
    しかし、この価格で全て頒布できたとしても実は利益というものはほとんど出ません。イベント会場にお越しになれないという方もいらっしゃると思うので委託もしておりますが、ロットが少ない状態で委託で原価回収しようとするととんでもない値段になってしまうので、委託分は原価を下回っています。さらに言えば、イベント代や交通費、ポスター代など、あまり計算したくないものが諸々あります。
    何百万と資産があり、大量のロットを発注でき、イラストや宣伝にもお金をかけられ、などの環境があるならば話は別ですが、1同人作家にそのような資金があるわけもなく。常にコストとの戦いです。

    自分は元々同人誌を描いていたのですが、同人誌というものは400円、500円で頒布してもなんら違和感はありません。というか、この価格にしないと赤字です(大手は別ですが)。
    同人誌の比較先は漫画の単行本などになると思いますが、方や400円で100ページも200ページもある中で、方や400円で32ページや36ページです。あまり同人業界に縁がない人から見ればとても対等とは思えないでしょうが、この価格で上手く回っています。
    しかし、同人ボードゲームというものは同じ印刷物にも関わらず、商業用と同価格で同程度の物が求められているように思われます。商業で2000円の物を、同人で2000円で刷れる訳がありません。しかし、現実としてそれを求められます。自分は現状これについて批判するつもりも変えようという気持ちも毛頭なく、そういう文化なのであればそれに従うのが道理だと考えております。
    ゲームデザインは人件費だけなので0円ですが、コンポーネントだけはお金をかけないと質の良いものは出来ません。ですので、コンポーネントには一切妥協しませんでした。そして、印刷所様もそれにお応えして頂けました。本当に感謝しております。

    そして、ここまで連々と書いてきましたが、このような事情が買い手には全く関係ないという事実も十分に心得ております。
    それを踏まえた上で、今回この「東方蜂蜜祭」をこのような価格で頒布致しました。


    <<システム>>
    基本的には生産系のボードゲームです。
    生産リソースが「養蜂箱」と「網」に分かれており、すぐには蜂蜜(お金)を得ることができないようなシステムにしています。これにより、常に1シーズン2シーズン先のことを考えてプレイすることになります。
    繰り返しになりますが、あらゆるシステムを考える上で最も大切にしたのが「比較的短時間で満足感を得られる」「初心者と経験者が同じ卓で遊べる」の2点です。その上で、「蜂蜜をめぐってお祭り騒ぎ!」できるようなボードゲームを目指しました。


    「養蜂箱」は『アリス・マーガトロイド』がいないとほぼ確実に『ボロい養蜂箱』が枯れるようにしています。また、特定のランク3の養蜂箱も全員の手には行き渡らないようにしています。更に、『大養蜂場ボーナス』を設けることでその競争の概念を加速させます。

    「網」は蜂を捕まえたい1シーズン前に必ず購入しておく必要があるデザインにしています。
    また、『普通の網』(及び『レミリア・スカーレット』)の能力により、デッキトップ操作を可能にしております。これにより、お金を対価に"運"をある程度操作できるようにしています。

    「蜂」は発案当初から一番変化しており、一番頭を悩ませたものです。
    蜂蜜の循環をどの程度にするかでゲームの全てが決まるので、ここのFIXには半年以上かかりました。
    ランク1、2の蜂は、序盤で活躍した蜂は終盤ではあまり役に立たないようなデザインにしてあります。逆もまた然りです。
    また、ゲームの終わりを明確に設定しているので、最後に余った蜂蜜や質を上げるイベントが無駄にならないように『蜂蜜富豪ボーナス』を導入しています。

    「キャラクター」はコンセプトにもある通り初心者と経験者が同じ卓で楽しんで頂きたい為、明確に強弱を設定しております
    キャラクターの選び方について言及していないのは、自由に選んでプレイして頂きたいからです。ランダムで選んでもよし、好きなキャラを選んでもよし、同程度の強さを選んでもよし、です。

    「イベント」はそのほとんどを"ジョーカー"として導入しています。当然、イベントの引き次第でゲームが左右することもあります。
    一方で、妨害系のカードは最小限に留めております。あくまでわいわいとプレイして頂きたいので、それに対するカウンターも多く導入しています。とはいえ、妨害がないとゲームをひっくり返すことができないので、いずれも強力な能力になっています。
    ゲーム後半で、所謂"死にカード"にならないように調整をしました。『早期収穫』は終盤では"死にカード"になりがちですが、序盤では超強力な為、このままのテキストで開発を進めました。

    自分はこのゲームをガチゲーにはしたくありませんでした。
    友人同士で、恋人同士で、家族で、上司部下で、誰とでも楽しくできるような、そんなゲームを目指しました。


    <<デザイン>>
    まず初めに、一次創作物である"東方Project"を生み出された上海アリス幻樂団様に多大なる敬意と感謝の意を表します。また、「東方蜂蜜祭」は版権元様とは一切関係ありませんので、版権元様へのご連絡はお控え下さい。

    基本的にアイコンやチップ、ボードなどのデザインは私が担当しました。幸いにも多少は絵に関して心得がありましたので、世界観にマッチするものができたと自負しております。
    イラストは多くの絵師さんがお力を貸して下さり、大変素晴らしいものに仕上がっております。本当に感謝しております。
    また、デザイナーの方のご指導などもあり、商業と並べても見劣りしないような物に仕上がったと思っております。
    私一人の力では「東方蜂蜜祭」を形にすることは出来ませんでした。非常に多くの方のご協力のもとに「東方蜂蜜祭」は世界を構築できました。本当にありがとうございました。


    全ての物をデザインする上で最も重要視したのは蜂蜜っぽさです。あらゆるコンポーネントに蜂蜜要素を取り入れています。12面ダイスも最も蜂蜜っぽいものを取り寄せました。
    木製ポーンは無理でしたごめんなさい。
    ひとつ反省点を上げるならば、イラストを重視しすぎるあまり若干テキストの文字サイズが小さくなってしまったことです。これは、次回の制作物に活かしていこうと思います。




    まだまだ書きたいことは山ほどありますが、ざっと書き並べるとこんな感じです。また書きたいことが浮かんだら追記していきますね。詳しいルールなどは特設ページに説明書を上げているので、そちらをお読み下さい。


    また、とらのあな様に委託もさせて頂いているので、そちらもよろしくお願いします。


    それでは、いつも果汁104%を応援して下さりありがとうございます。
    また、次のイベントでお会いしましょう。